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2011年1月23日日曜日

米粉のつなぐご縁、睦実

大和郡山にある、米粉のパンとお菓子のお店、睦実さん。
パンとお菓子、すべて店主のまきこさんがひとりでこしらえている。
まきこさんのつくるパンはとてもおいしい。
米粉のパンは、もっちり、むっちり。
どれもまるまる、ふかふかして、
まきこさんのお人柄をあらわしているようだ。


睦実の米粉は、奈良県産の減農薬のお米をひいたもの。
パンとお菓子の素材の野菜も、できるかぎり
奈良県産の無農薬野菜をつかっている。
自分の暮らす土地とお水でとれたもの。
どこか遠いところから運ばれてくるものより、
自分の近くでつくられたものの方が、体と心にしっくりあう。
まきこさんがそう考えた結果だ。


店主のまきこさん、じつは以前、会社員をしていらした。
カフェやパン屋さんのおつとめではない。いっぱんの会社員。
まきこさんご自身も、数年前まで、自分がパン屋さんを
しているなんて、思ってもみなかっただろう。

この手から睦実のパンが生まれる。

そういうのにはわけがある。
この睦実というお店、「パン屋さんを開く」ためでなく、
「そこに米粉があったから」生まれたお店だからだ。
まきこさんと米粉の出会いと、たくさんのご縁がつながって
睦実というお店は生まれた。
まきこさんと米粉をめぐる物語のはじまりだ。


捨てられているお米がある——そんなショッキングな現実をまきこさんが
知ったのは、ある農業体験のイベントに参加したのがきっかけだった。
玄米から白米にする途中で、割れたり欠けたりしたお米はのぞかれる。
俗に「くず米」と呼ばれるお米である。
「くず」なんてよばれると栄養のないお米のように
思えるがそんなことはけして無い。
ただ、ちょっとだけ形がいびつなだけ。
「くず米」と呼ばれるお米たちは
飼料にまわされるなど、ほかにも利用されているが、
それでもあまってしまった分は廃棄処分にまわされる。
だれもが「もったいない」と感じる話だ。
睦実というお店は、この現実をなんとか変えられないかと
考えたところからはじまった。


その当時、おつとめをしていたまきこさんは、
趣味でパン教室に通っていた。
ちょうどその頃、米粉のパンが話題になりはじめていた。
実際に米粉のパンを食べてみるととてもおいしい。
「じゃあ、捨てられているお米を米粉にしてパンにしたら?」
調べてみると奈良県内で米粉のパンが焼けるくらい、
細かく粉をひける場所があることもわかった。
まきこさんのなかで、米粉=パンという思いが
ムクムクと大きくなりはじめる。


「このままじゃあかんなぁ」という思いは、それ以前からあった。
電車に乗って。コンクリートの上を歩いて。パソコンに向かって。
これだけ環境の問題が叫ばれているなかで、このままでいいんだろうか。
日常の小さな疑問符は、いっぱいにつみ重なっていた。

「自分にできることはなんやろ?」とまきこさんは考えていた。
そうして考えたとき出てくる答えはいつもひとつだった。
「私には米粉のパンがある。米粉のパンしかない。」
まきこさんががむしゃらに米粉のパンをつくる日々がはじまった。


試行錯誤していたとき、まきこさんの背中を押したことばがふたつあった。
ひとつめは「自分の仕事を考える」という講演会のなかのことば。
「気づいたからにはしなければならない義務がある」
ふたつめは『ハチドリのひとしずく』という小さな絵本のなかのことば。
山が火事になったとき、動物はみんな逃げ出した。
そんななかで、ハチドリというハチのように小さな鳥だけが、
山火事に水をはこびつづけた。ひとしずく。ひとしずく。
どうしてお前はそんなことをしているのかと嘲笑されて、ハチドリはこう答える。
「私は、私にできることをしているだけ」
どんなに小さなことでも、私にできることをしなければ。
まきこさんは毎日パンをこしらえた。


お店を準備するなかで、新しくいろいろなものを買うのはやめようと
まきこさんは考えた。新しいものを買うのでなく、あるものを使って、
みんなにやさしいお店にしよう。

店内の改装は、床は木だったから、そのまま使うことにした。
ペンキ塗りは友だちのお父さんの力を借りた。
レジ台とイートインのテーブルは、まきこさんのお父さんと手作りした。
床の木には柿渋をぬりこんだ。
パンを置くテーブルは、おばあちゃんからもらったテーブル。
お店のお皿も、おばあちゃんからゆずりうけた。
パンを並べた竹ざるは、おじいちゃんにもらった梅干用の大きなざる。
お店のモチーフ、もっちりふっくらお団子型は、お友だちのデザイン。
HPもwebデザインを勉強する友だちがつくってくれた。
ふだんのお店はお母さんが手伝ってくれて・・・

おばあちゃんのお皿。

「睦実」のお店はみんなの力が集まってできている。
みんなから助けられて、支え合って。
「みんなが仲睦まじく暮らせますように」という思いからつけられた
「睦実」という名前のとおりにむつまじく。

お父さんとつくったテーブル。

まだお店の場所が決まらなかったとき、場所のご縁を生んだのは、
以前から家族で行きつけにしていた、近所のおそば屋さんだった。
別館だった場所があいていたところから話はすすんで、場所が決まった。
お店が開いてからもパン屋さんの経営の経験のないまきこさんを気遣い、
あたたかく見守ってくださっている。

食パンのこんなところにも睦実のマーク。

米粉と出会うきっかけになった農業体験のご縁はいまも続いている。
体験に訪れた羽間農園さんからは、いまもお茶や野菜が届く。
イベントを主催した奈良県農民連さんからは、米粉と野菜を仕入れている。

羽間農園さんとのコラボGOPAN.
おむすびぱん。

まきこさんが米粉ではじめてつくったのが「まんまるぱん」。
まるまる、ふかふか、まんまるの小さなパン。
まきこさんのどこかハチドリを思わせる
小さな手でこしらえた丸。
まるでまきこさんそのもののようなパンだ。
やわらかい味。かすかな甘み。しあわせの◎。


睦実のお店にいったら、ぜひパン以外にも、
農家さんのお知らせやリーフレットも目に留めてほしい。
睦実が次なる出会いの誕生する場であって欲しいと、
まきこさんは願ってます。


これまでのまきこさんの出会いとご縁がつながって
リンクしていく大きな和。
米粉のご縁がうんだお店が、これからもどんどん広がるべく
まきこさんは今日も米粉のぱんをこしらえています。


「米粉のパンとお菓子 睦実」

639-1053
奈良県大和郡山市千日町25-1
TEL&FAX:0743-55-6551

営業時間:10:00頃~17:30頃(パン・お菓子売り切れ次第終了)
定休日:月/火/第二・第四日曜日

*店内の写真はすべて許可を得て撮影しています*






『ハチドリのひとしずく』辻信一(監修)光文社、2005年
シンプルでとても短いストーリーです。
挿絵の切り絵も、物語と同じように、素朴で力強い。
すぐに読めてしまうので、ぜひどこかで手に取って欲しい。
睦実のお店にも置いてあります。


*****


すずめのお買い上げ。



special thanks
まきこさん、ながいながいお話を
聞かせていただきありがとうございました。

(文章・写真:すずめ)




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