ページ

2011年1月30日日曜日

ぽっかぽか。奈良オーガニックマーケット

冬。私の家の寝室にはストーブなんて贅沢なものはなくて、
それなのに田舎の冬は、容赦なく寒かった。
それだけでずいぶんブルーになれるのに、
布団に入った瞬間の“ひやり”と音がしそうなほどのあの感触が幼い私を憂鬱にさせた。
わたしはそれを妖怪“ひやり”と呼んでいた。
もう赤ちゃんじゃないんやし、と意を決して自分の布団に入るも妖怪“ひやり”は
すぐさま私を攻撃し始める。ひやり、ひや〜り。
ゴレンジャーなら断然ピンクになりたかったが、うわん、
とばかりに妖怪“ひやり”にすぐさま降参してしまう、
そんな私はきっと生涯ピンクにはなれるまい。
横目でとなりの母の寝床を伺う。
母はにこりと「しゃあないなあ。こっちにおいで」とこまねく。
母が布団を広げる。はよはよ。
甘い誘いにころりと負けて私はその幸せにすっぽり包まれた。
「いつまでたっても赤ちゃんやなあ、あんたは」
母は私を抱きすくめる。
「おお、つめた。つめたい体して。ほら、にんげんごたつ」
妖怪“にんげんごたつ”になら私ずっと負け続けてもええなあ。
ふへへ。私はにんげんごたつと化した母にすがりつく。
母が私をきゅっと抱くと、こそばゆくて、柔らかくて甘い匂いがした。
そして、何よりも、めちゃくちゃあったかかった。



2010年12月26日、JR奈良駅の広場で、
母と一緒の布団に寝た幼い日のことを私はひそかに思い出していた。

その日は、奈良盆地の底冷えが体に響くほど寒い日だった。
しかし、広場にはそこはかとなく、あったかい空気が流れていた。
第一回、奈良オーガニックマーケット。

人々が行きかい、火鉢で暖をとり、談笑している。
野菜が直売され、種を交換しあう。
数時間ごとに、うすと杵でぺたんぺたんと餅つきのパフォーマンスがあり
つきたての餅がふるまわれる。
「おいしいですよ」
あつあつのお餅をほおばると人の手でつかれた優しい味がした。
「もっと食べてってくださいね」笑顔があったかい。
ありがとうと微笑み返せば、その場にいるだけで心まで温まる気がする。
人と人とのふれあいの中に暖がある。



奈良オーガニックマーケットは、「農」が中心のマーケット。
奈良を中心とした若い農業者と私たち買い手や料理人やまた同じ農業者の方々が
直接出会い、会話し、輪を広げて行く交流の場。


およそ20店舗以上のお店が毎回軒を連ねる。
産地直売、新鮮な野菜を売るお店。米粉を使ったパンを売るお店。
子供服のリサイクルショップ。蜂蜜や蜜蝋を売るお店、とさまざまだ。


「それでも、まだ出店したいと言ってくださる方がたくさんいるんですよ」
主催者の方は語る。


「生産者こそ、出会いや交流を求めているんです。
 顔が見えるおつきあいから輪が広がる」
奈良オーガニックマーケットの主旨を表すかのようなイベントが
『たねの交換会 in 奈良オーガニックマーケット』だ。
参加する人が守り育てて行きたい種を交換し合う場。
種を中心に人が交流し、また種が新しい土地と出会う場となり、農が広がる。





大事な種を交換し合う、そんな農業独特の人々のふれあいを共存という
言葉で語ってくださったのは、この日も出店されていた羽間農園の農主、羽間さん。
「農業っていうのは、不思議と競合とかってないんですよね。共存。
 みんなが昔っから助け合ってやっていっている仕事なんです」
大阪出身の羽間さんは大学卒業後、北海道や奈良の陽光ファームさんで農修行を
された後、奈良榛原市に自らの農園を開き、妹さんと営まれている。
紅茶を中心に栽培されているが、他にもお野菜、古代米など有機で栽培されている。
羽間農園では、季節の折々に茶摘みや餅つき、
わらじ作りなどのイベントもされている。
羽間さんの人の良さがよくあらわれた羽間農園のお野菜は、
たくさんの太陽をあびて甘い味がする。


 







「羽間さんのお野菜を使わせてもらってパンを焼いています」
そう語るのは<米粉のパンとお菓子 睦実>の店主。
かわいらしい容貌から作り出されるぱんの数々もまた愛らしい。
子供に人気のおとうふぱん。かぼちゃぱんに黒糖ぱん。ほうじちゃあんぱん。
絵本『からすのパン屋さん』に出て来たパンをきらきらした目で眺める子供のように、
思わずうわあ、と声をあげてしまう。
店は大反響でお昼過ぎにはすっかり完売して、睦実さんは店じまいをされていた。
「せっかく奈良に住んでいるのだから、
 できるだけ地元のお野菜を使ってパンを焼こうと思って」





そんな睦実さんの店のお野菜としても使われている野菜にオーガニックショップ
いつふしの草さんに野菜を出荷しているおひさん自然農園さんのものがある。


おひさん自然農園さんは、奥様とお子さん3人家族で営まれている家族経営の農園。
この日は、にんじんやヤーコンを売られていた。
だんなさまの脱サラして、自然農を始められたそう。
自然の中で暮らすのはおだやかで、慈しみが有り、癒しの日々だそうだ。
「こんな生活がしたいと思っていたんです」
自然農をはじめて今年で15年になる。
家族三人の食事を担う自給自足生活から、
今では少しばかし奥様と配達でお野菜を出荷している。
家族三人、仲睦まじく、自然と人とふれあって穏やかに暮らす、
おひさま自然農園さんの日常が少しだけ垣間見えた気がした。

「農」は家族みたいにあったかい。
人と人とが助け合って、共存しあって、つながりあって。
幼い日、私が母に抱かれた“にんげんこたつ”の思い出みたい。

奈良オーガニックマーケットという“にんげんごたつ”に
行き交う人が足を入れ暖をとる。

あたためあって、笑い合って、そしてぬくもりの輪が広がって行く。

奈良オーガニックマーケットは毎月最終日曜日にJR奈良駅前にて開催。
にんげんごたつで暖をとりに。ぜひ足を運んで見てください。
きっとぽっかぽかになれるはず。



奈良オーガニックマーケット(HP
次回は2月27日(日)
JR奈良駅前広場
9時~14時(小雨決行)

*マイバッグ、マイハシ、マイカップ、仕分袋やタッパーなどご持参にご協力下さい。

0 件のコメント:

コメントを投稿